『ベルリーナー・ツァイトゥング』紙 2004年2月28日(土)

「小欧州構想はもはや機能しません」


ヨシュカ・フィッシャー外相がトルコEU加盟、シュレーダー首相の社会民主党党首辞任、および「料理人と給仕」の関係について語る

〔B=『ベルリーナー・ツァイトゥング』紙、F=フィッシャー外相〕

B:フィッシャー外相、人々がトルコのEU加盟に不安を抱く気持ちを理解できますか?あたかもトルコが再びウィーンに迫りつつある*)かのような?

F:ええ、想像できます。私は南ドイツのカトリックの子として育ちましたから。でもその考えには与しません。

B:にもかかわらず、トルコとの加盟交渉開始には賛成なのですね?

F:世間は政治家が頑として学ばないと考えています。でも私はそうではありません。かつては私もトルコの加盟に51パーセントは賛成、49パーセントは疑念を抱くような人間の一人でした。しかし2001年9月11日のテロが私の考え方を根本的に変えたのです。それ以来私には、欧州統合には戦略的広がりもあることがいよいよはっきりしてきたのです。この広がりの中では欧州の基準に添ったトルコも、共通のEU外交安全保障などできわめて大きな意味を持つことになります。

B:戦略的広がりとは何ですか?

F:統合欧州は二つの大戦という災禍に対する答えとして創立されました。実用的には経済共同体から始まりましたが、本来は歴史的広がりを持っていたのです。すなわち、ドイツとフランスの融和です。実用主義と歴史が創立者たちを動かしたのです。しかし今私たちは、欧州連合が戦略プロジェクトになったと認めています。これは二つの日付と結びついています。1989年11月9日と2001年9月11日です。この二つの日付が欧州連合の姿を変容させ、一方で強化したのです。

B:最初の日付からは14年が経ちました。遅ればせながらの認識ということでしょうか?

F:いいですか、冷戦の終結は長い間将来の展望を歪めてきました。90年代に西欧の私たちは陽気なお祝いに浮かれていました。しかしまさにこの時期、アフガニスタンではこれまでとまったく異なる危険が膨れ上がっていたのです。崩壊した国家から西欧を脅かす危険が生まれたのです。軍事的な危険ではありません。アメリカ合衆国の軍事力は9月11日のテロでもかすり傷すら負いませんでした。危険は、全体主義理念に基づく世界像を抱くテロ集団の宣戦布告でした。これが私たちの開かれた社会や生活様式にとっての危険なのです。

B:新たな敵というわけですね。

F:ええ。もはやこの紛争を国際政治の地下室に閉じ込めて、「道徳的には悪い、人道的にも悪い、でも我々を脅かすものではない」などと言って済ますことはできないことを、私たちは理解せねばなりません。私たちには21世紀を規定する新たな課題を抱えています。すなわちグローバル化を政治の上で構成するという使命です。不均整の紛争をコントロールし、可能な限り解決すること。これができるのは、大陸的な規模で行動できる場合に限られます。ロシア、中国、インド、そしてもちろんアメリカはこれに必要な大きさがあります。私たちヨーロッパ人は、自らの影響力を行使するために緊密に合体できるか否かが問われているのです。この観点でトルコEU加盟論議も考える必要があります。

B:EUは拡大によって弱体化するのではなく、反対に強化されるとお考えなのですね?

F:はい。小欧州構想はもう機能しないのです。その考えではヨーロッパ大陸は戦略的広がりを満たすことができません。そしてこの広がりは必須なのです。

B:ご自身も昔は別のお考えだったと思いますが。

F:部分的にはおっしゃるとおりです。しかしあの構想は世界政治の区切りを成す9・11以前のものです。私たちの欧州統合構想はいまだ現実に充分対応していなかったということが、私にはいよいよはっきり見えてきたのです。今日私たちがEUレベルの変化を理解反芻する難しさは、かつての西ドイツの人々の状況と似ています。当時私たちはドイツ再統一を、東ドイツが西ドイツに加盟し、西は何ら変化しないということだと考えていました。これは大きな誤りでした。新しい状況が生まれることを理解すべきだったのです。同じことが今のEUについて当てはまります。拡大後にはEUはまったく別のものになるでしょう。

B:2000年の段階ではフンボルト大学の講演**)で将来のEUを小さなグループとして説明なさいましたね。

F:あのフンボルト演説は今日なら部分的に修正します。EUが一層の統合と一層強力な機構を必要とするという確信は以前よりも深まっていますが、小欧州構想にはもはや与しません。EU先駆グループという構想は・・・

B:・・・つまり先行統合を望む個々の加盟国のグループですね・・・

F:・・・場合によっては一時的に有効かもしれません。しかしこれが認められるのは、欧州憲法の明確な規定の枠内に限ります。

B:すると中核ヨーロッパの構想はもう古いと?

F:と私は考えます。

B:しかし一体25ヶ国あるいは30ヶ国のEUなどは機能するのでしょうか?

F:もちろんこの規模と戦略的方向は、これまでの範囲をはるかに超える統合が強制されることを意味します。このように多くのいろいろな加盟国を抱えれば、共同体の内部の結束を強化する必要があります。EU憲法の可決はこの問題できわめて重要な意味を持つでしょう。

B:この憲法で次の、またさらに次の拡大は処理できるのでしょうか?

F:ええ、間違いありません。この憲法は優れたものです。柔軟で、ダイナミックで、発展の可能性を持っています。

B:しかしまだ可決されていませんね。再度の協議で今年中に成立するでしょうか?

F:そう期待しています。

B:ドイツ政府は、EUが二重多数決制で決定を行うことを是が非でも求めています。加盟国の過半数だけでなく、EU市民の多数をも必要とする方式です。この要求を変えることはありませんか?

F:お粗末な憲法ならば持たない方がましと、私たちは確信しています。この中核領域で内容を薄めれば、お粗末な憲法になってしまいます。そうするくらいならば、引き続き現行のEU諸条約により、どこまで行けるか様子を見た方が良いでしょう。私はあまり先までは行けないと思いますが。

B:そうなれば中核ヨーロッパが生まれるのでしょうか?たとえばドイツ、フランス、そのほか希望があれば参画できる国々から構成される中核ヨーロッパが?

F:いいえ、そうはならないと思います。

B:ではどうなるのでしょう?

F:EUはきわめて難しい航路を辿ることになるでしょう。圧力が高まるでしょう。憲法なしでは最善の解決策が得られないからです。加盟国の間にさまざまな統合速度が生まれることでしょう。私たちはこれを望みません。ですから移行段階もひとつだけです。私は、圧力が高まって、歴史が物事を正しい方向に押し進めてくれると考えています。

B:しかしEUは空中分解するかもしれません。

F:いいえ。分解するにはEUは古すぎます。諸機構は揺ぎなく固定されています。破綻などしている暇は私たちにはないのです。

B:それは「危機は危機でなく好機なのだ」という風に聞こえますね。

F:危機のない発展はない、これは一種の基本公式です。危機は病気ではなく、形式と内容を再び合わせる必要から生じるのです。成長過程ではたびたび、長い間目に見えない形で進行する発達が危機に至るケースを経験します。これは国や民族や政治についても当てはまります。EUにも該当します。

B:EU加盟が自国に利益をもたらすと考える者が二人に一人もいないドイツの国民にどう説明しますか?

F:これは仮想の質問です。通りに出て誰かに「EUをどう思いますか」と尋ねたとします。相手は寝覚めが悪かったか、ご機嫌が斜めです。それで「何もかもくだらん!」などと答えます。でも「私たちは欧州統合を進めたものでしょうか、それとも欧州連合から脱退すべきでしょうか。憲法を求めますか、それとも最終結論として脱退でしょうか」と尋ねれば、それは本当の国民投票になり、ネガティブな大衆迎合主義の口実だけにはなりません。

B:それでは国民投票はどのような結果になるでしょうか?

F:EU支持になることは明らかです。ドイツ人の大多数はEU支持に回るでしょう。誰も皆「EUはこれをすべきだ、あれをすべきだ」と言っているではありませんか。EUが不可欠であるという人々の認識はこの言い方に明らかです。アメリカでは何もかもワシントンのせいにします。こちらではブリュッセル(=EU。訳注)に文句を言います。これは大きな合体を伴う中央集権傾向に対する反発です。私はこれを正常な反応と考えます。

B:それでは欧州憲法を問う国民投票が、なぜドイツではできないのでしょうか?

F:私たちにはその伝統がありません。国民投票で何を問おうというのでしょう?欧州憲法ですか、ニース条約ですか?一体誰が分かっているでしょうか?わが党の主張とは異なるのは認めますが、個人的には私は国民投票の必要性を認めません。

B:特務欧州委員Superkommissar***)を務めるお気持ちは?

F:ありません。

B:将来もこの職に留まるおつもりですか?

F:ええ、私は自分の将来をこの職に考えています。その後はまったくどこか別のところです。

B:欧州連合の初代外相でもありませんか?

F:ええ。良く聞いてくださいよ。これは明確な、きっぱりとした否定なのです。

B:首相があなたの所轄の外交にいよいよ侵入してもですか?

F:首相は私の所轄に侵入などしていません。外交は外相と首相が常に共同で行うものです。しかし最後の決定は、基本法が定めるように、首相が行います。

B:でも党首を辞任した今、首相の外交の時間は増えました。

F:何も異論はありません。その反対です。

B:料理人が給仕も勤めようとすることについては?

F:私たちは料理人と給仕の関係ではありません。そのイメージは歪んでおり、一度たりとも当てはまったことはありません。私たちは重要な決定はみな一緒に行っているのです。

インタビュアーはダミール・フラースとベッティーナ・フェストリング
(仮)訳:中島大輔

訳注

*)1683年7月14日にオスマントルコは20万の大軍でウィーンを包囲した。このときは神聖ローマ皇帝軍がトルコ軍を退けた。
**) 2000年5月12日にフンボルト大学で行った講演「国家連合から連邦へ―欧州統合の最終段階に関する考察―」(本ホームページ参照)
***) 「特務欧州委員」とは独仏英首脳が2月18日にベルリンの首脳会談で提案したもの。(本ホームページ参照)

原題:"Klein-europaeische Vorstellungen funktionieren einfach nicht mehr"
Aussenminister Joschka Fischer ueber die Integration der Tuerkei, den Ruecktritt Schroeders als SPD-Chef und eine Beziehung zwischen Koch und Kellner




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